大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)3347号 判決

原告

松本忠吉

被告

帝国煉瓦株式会社

ほか一名

第一 主文

一、被告らは原告に対し、連帯して、金三五九、四一七円およびこれに対する昭和四三年四月一二日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四、この判決一項はかりに執行することができる。

第二 本訴請求の趣旨

「被告らは原告に対し、各自金六、六一二、三一〇円および右内金一、五八七、五四〇円に対しては本件訴状送達の翌日である昭和四三年四月一二日から、内金五、〇二四、七七〇円に対しては請求拡張申立の翌日である昭和四三年一一月一〇日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言。

第三争いない事実

一、傷害自動車事故発生

とき 昭和四二年七月二〇日午前八時四五分頃

ところ 埼玉県春日部市大字粕壁六二一一先国道四号線路上

事故車 被告会社所有の大型貨物自動車、栃一せ四九五六号

右運転者 被告鈴木、二〇歳

受傷者 原告(原告所有の普通貨物自動車、埼四は八八二七号運転中)、昭和四年一一月二二日生

態様 事故車は北進中、信号待ちの原告車に追突、ために原告は受傷した。

二、責任原因について

被告会社は本件事故車の所有者で、その名において税金、保険契約を負担または契約していた。

三、損害の填補

原告は訴外関根三英から示談金として金二〇〇、〇〇〇円また左の内訳による強制保険金七〇〇、〇〇〇円を受領し、それぞれ損害に填補した。

強制保険金内訳

治療関係費 二三九、四一七円

治療期間補償費 二六〇、五八三円

後遺障害補償費 二〇〇、〇〇〇円

第四争点

一、責任原因

(一) 原告の主張

1 被告鈴木の不法行為責任

本件事故は前方注視の義務を怠つた運転上の過失によるものであるから、民法七〇九条による責任がある。

2 被告会社の運行供用者責任、使用者責任

被告会社は本件事故車の保有者であり、被告鈴木は被告会社の従業員であつて、本件事故は被告会社のため煉瓦を配達した帰途、発生したものである。従つて被告会社は自賠法三条、民法七一五条により賠償責任を負わねばならない。

(二) 被告らの主張

原告の主張は否認する。被告会社は本件事故車は使用しておらず、昭和四一年一二月一日以降四二年九月末までの約束で一ケ月金五万円の賃料で訴外関根三英に賃貸していたにすぎない。そして事故発生日は右関根が専ら使用し、ガソリン代は当然本人が負担していたし、被告会社は右関根を指揮・監督はしていない。また被告鈴木は被告会社の従業員ではない。

二、損害

(一) 原告の主張

原告は本件事故により頭部打撲症・むちうち症を蒙り、頭痛・右上下肢運動、知覚障害をのこし、左記数額にわたる損害を受けた。

1 逸失利益 金四、六一二、三一三円

原告は畳床の製造販売業を営み、事故当時まで一ケ月平均二八八、八〇〇円の利潤を得ていたところ、本件受傷により、事故後から昭和四三年二月末日までの八ケ月間の利潤は六一八、九五七円にとどまり、事故時平均による八ケ月間の利潤見積額二、三三〇、四〇〇円との差額一、七一一、四四三円の損失を蒙つたことになる。

またその後も本件傷害によつて業務に服することができず、収入の道を断たれたので、やむなく四三年三月二五日個人事業の畳床製造販売業を廃業し法人組織とし、株式会社松本製作所を創立して、原告自らその代表取締役に就任した。しかし完全治癒を期すべくもなく、終生平均月収額金四万円としてその半額の収益能力を失つた。満五六歳までを可働期間とするもなお一八年の稼働年数を存するから、その間の右割合による逸失利益の現価総計をホフマン式計算により算出すると金三、〇二四、七七〇円となる。

2 慰藉料 金二、〇〇〇、〇〇〇円

原告は畳床製造業界において若き技術家としてまた同業組合における幹部として、その活動力は組合員すべての期待を担うところのものであつたが、本件受傷によりその業界の信頼も失い、家族にも不安を与え、その心身の苦痛は絶大で、これを慰藉すべく、右金額が相当である。

(二) 被告らの主張

原告の主張を否認する。原告は昭和四三年三月二三日を境に、それ以前は個人事業の営業主、それ以降は株式会社松本製作所の代表取締役であると主張するが納税の主体がそうであるようにまだ働きざかりの原告の父竜助が事業主として事業を総括していたものであり、原告は畳床の原材料および製品の運搬の仕事をしていたにすぎない。またむちうち症で勤務不能といいながら事故後設立の会社代表取締役に就任したと主張しているし、収益喪失、労働能力喪失は到底考えられない。

第五争点に対する判断

一、責任原因

1 被告鈴木の不法行為責任

原告主張のとおり認められる。

2 被告会社の運行供用者責任

本件事故当時本件事故車は訴外関根三英が被告会社から借受けて運送業務に使用していたもので「賃料月五万円、貸与期間四一年一二月から四二年九月まで、期間満了後、六五万円で譲渡する。」むねの契約書は存在するけれども現実に賃料を支払つたことはなかつた。そして訴外関根は約一〇年を遡る被告会社の設立当初から、運送事業の許可なく、被告会社名義の車両により、殆んど専属的に被告会社の製品である煉瓦運送に従事してき、本件事故もその運搬業務の帰途に生じたものである。そして事故車のガソリン代修理費などの諸掛り、税金、保険料などは被告会社で支払い、訴外関根に対する運送賃の清算は月末決済で行なつていた。被告鈴木も従前被告会社に勤務していたことがある。

右のような事情のもとでは、事故当時被告会社は保有者として通常推定できる本件事故車に対する運行支配を失つていたものとは到底認められない。従つて自賠法三条により、原告に生じた損害を賠償する責に任じなければならない。〔証拠略〕

二、損害の発生

1 逸失利益 金三二〇、〇〇〇円

原告は事故当時、昭和三〇年頃から父竜助名義で開業していた畳床製造販売業に従事していたが、本件受傷により昭和四三年三月まで八ケ月間その家業に関与することができなくなり、その間一ケ月平均四万円あての減収をきたしたものとするのが相当である。

右限度をこえる逸失利益については得心のゆく立証がなく、にわかに認めがたいところである。すなわち原告主張の減収を証するものとして提出された関東畳床工業組合理事長発行の利潤認定の証明書(甲五号証)はおおむね原告の申告ないし口授にもとづいて作成されたもので、納税証明書(甲一〇号証)の記載から推定される所得額などとも大きくくいちがい、にわかに信頼できない。また畳床製造に関する業界の規制、稼働の季節的変動、また、原告の業務に対する関与のあり方、程度などの点も原告の主張に信をおきがたい根拠の一つである。

2 慰藉料 金七〇〇、〇〇〇円

前後一〇二日にわたる入院、一年以上にわたつて通院(ただし実日数は約三〇日)を要した治療の経過、医師によつて障害等級一二級と認定された頭痛、右上下肢のしびれ、めまいなどの症状をながく残した点などを考慮した。〔証拠略〕

三、結論

右認定の損害合計金一、〇二〇、〇〇〇円から治療関係費をのぞく強制保険給付額四六〇、五八三円、訴外関根支払の示談金二〇〇、〇〇〇円、合計六六〇、五八三円の填補額を差引くと未済残額は金三五九、四一七円となる。従つて原告の本訴請求は主文の限度で認容すべきである。

訴訟費用につき民訴法九二条、九三条、仮執行宣言につき同一九六条を適用した。

(裁判官 舟本信光)

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